セカンドライフフラワー アーティストインタビュー 「日常にあるものでも“心地よさ”は伝えられる」

セカンドライフフラワー アーティストインタビュー 「日常にあるものでも“心地よさ”は伝えられる」

2020年08月14日

Sakaseruでこれまで取り組んできた、「セカンドライフフラワー」の活動。
現在その代表的な取り組みである、花を使った一輪挿しの制作・販売には、制作を担ってくださる方の協力が不可欠です。
担当してくれているのは、東京芸術大学出身・同校の教育研究助手も勤める猿渡真緒さん。彫刻を手がけるアーティストで、その技術をもってセカンドライフフラワー事業に協力してくれています。



猿渡 真緒 Mao Saruwatari

主にテラコッタ技法を用いて彫刻作品を制作。
2014年 国際瀧冨士美術賞 特別賞
2015年 東京藝術大学美術学部彫刻科彫刻学科卒業
2015年 台東区長奨励賞
2015年 平山郁夫賞
2017年 東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
2017年 早暁賞



猿渡さんがこれまで手がけてきた作品とは大きく違う、セカンドライフフラワーの花瓶。猿渡さんはどのような想いで制作をしているのでしょうか。また、猿渡真緒さんという方はどんな方なのでしょうか。

今回は、その想いを中心に、実際の制作風景や、アーティストとしての考え方を伺いました。



アーティストとしての
バックグラウンド



――猿渡さんは、東京芸術大学の美術学部をご卒業後、大学院に進み、現在は制作の傍ら教育研究助手をしていらっしゃいますよね。

はい、2011年に大学に入学しました。



――どんな風に芸術に興味を持ち、大学に入学し、そして現在に至っているのでしょうか。


高校の時、学校外で何かしたいなと思って、近所の美術予備校に通い始めたのがきっかけでした。美大に入ろう、というよりは習い事のような感覚で。その予備校で色んな世界を知りました。

例えば、地方にも国立の美術大学があるということも予備校で初めて知りましたし、彫刻という分野に触れたのも、美術予備校からです。もともとはイラストを描くのが好きで、デザイン科に入れたらいいな、と思っていました。

実は今でも彫刻というものに格別こだわりはないんです。なので“立体造形”に興味を持ったという方が正しいかもしれません。それも、予備校での体験授業でのことです。
石粉粘土で架空の動物を作ろうというお題だったのですが、それがすごく楽しかったんです。私の作品を先生がひっくり返しているのを見て、「立体物を作るのって、360度プロデュースできるんだな」と、それまで平面で考えていた私には、すごく新鮮に感じました。



猿渡さんの作品



――立体造形の面白さはどういうところだと思いますか?


様々な角度から見た時のデザインができることや、自分の手で触れて作ったものが立体で現れて来る状況そのものが面白いと思っています。
自分の手で作っている感覚、ダイレクトに自分が作った感覚があるのが好きです。道具を通すと表面に残るのは道具の跡ですが、指で触った仕事が最後まで残っているというのが、粘土の特徴です。究極的に言えば、粘土に握った手の跡があれば、それは作品になります。



――制作を通じてどんなことを伝えたいと思っていますか?


心地よさ、を感じてもらいたいです。
心地よさというのは、かわいいとか気分が安らいだとか、なんかユニークだとか……なんでも良いんですが、プラスの感覚。作品を見たその時だけでも、何かを感じて帰って欲しいと思っています。あとは製作時の私の心を表していることも多いので、見た人に共感してもらえたらいいな、とも思います。

社会問題をテーマにしたり、コンセプチュアルなものはあまり作りません。



セカンドライフフラワーへの共感



――コンセプチュアルなものはあまり好まれない、という猿渡さんが、セカンドライフフラワーに賛同して下さったのはどうしてですか?


まずはセカンドライフフラワーの考え方を聞き、姿を変えて花を残していける取り組みが素晴らしいと思ったからです。「そういえば、公演やイベントが終わったあとのお花の行方というのは、考えたことがなかったな」と。
私も舞台やコンサートといった場にはよく行きますし、美術の展示会でもお祝い花を見る機会が多いので、身近な問題だったということもありました。お花屋さんは花が好きでやっている方も多いでしょうから、その気持を考えると、綺麗なままの花を捨ててしまうのは心苦しいとも思いました。

加えて、花瓶、というか、日常にあるものを制作するということが、今の自分にすごくぴんとくるものだったんです。

私は一昨年、病を患い、体力を考えながらものづくりをしなければならなくなりました。それまで大きな作品ばかり作っていたのですが、大きさの分、気力や体力も大きく削られるものなので、そういう制作ばかりは続けられない。彫刻を続けることに対し悩んでいたところに、セカンドライフフラワーの話を聞きました。そして一輪挿しの企画を進める中で、ふと、小さいものでも、私の伝えたいことが伝えられるんじゃないか、と気付きました。私が生涯続けていきたい、“作る”ということを、もっと柔軟に考えることができたんです。



――そこでなぜ、新しい視点に気づけたのでしょうか?


新たに気づいたというよりは、心地よさを感じて欲しい、という原点を思い出したと言えるかもしれません。

元々、大きな作品が作りたかったわけではなかったんです。私はただ、私の作品を見た人に心地よさを感じて欲しかった。でも、美術大学にいると与えられる展示空間は広くて、そこに見合う大きさの作品を作らなきゃ、と考えていました。誰かからそう言われたわけでもなかったのですが。

セカンドライフフラワーのことを考えていたら、「日常にぽん、とあるものでも“心地よさ”は伝えられる」と感じました。むしろ一輪挿しという形で、手にとってもらって、生活のそばにおいてもらえることを、嬉しく感じたんです。



――猿渡さんにとって、考え方にも共感できて、ご自身の表現したいことにも一致していたということなんですね。


はい、そうなんだと思います。



制作について



――それでは、花瓶の具体的な制作手順を教えて下さい。


最初はテラコッタ……素焼きの焼き物で、原型を作ります。粘土を形成して800度で焼くとテラコッタになるので、その表面を整え、今度はシリコンで型取りをします。





そうして作られたシリコン製の型に、次はドライフラワーを置いていきます。この段階で、出来上がりの見た目や見え方を考えています。
そこにジェスモナイト(※)を流し込んで行きます。



※ジェスモナイト……近年開発された造形素材。有害物質が発生するこれまでの素材と違い、人体・環境に影響がなく次世代の素材として注目されている。




この一輪挿しは何より模様の部分が大事なので、一度薄く流し込んで花の見え方を確認してから、問題なければ更に流し込みます。同時に、中の空間を作るための型を合わせて固まるまで待ちます。

これを二回繰り返すと同じものが二つできるので、その二つの接着面にジェスモナイトを塗って、接着します。ここではみ出た部分を削るのですが、この工程が意外に大変だったりします。粉塵が出てしまうので、どこでもできる作業ではなくて……。





その後はやすりをかけ、内側・外側に防水のコーティングをして、完成です。








――淡々とお話されているように見えますが、この工程に至るまで、試行錯誤もあったのでしょうか?


はい、色々とやり方も変えてきましたし、今も失敗して破棄になってしまうこともあります。
もともと大きなものを中心に制作していましたから、小さなものに慣れるところから……というのもありましたし、他にも、原型作りは素材選びに難航しました。最初は紙粘土でやってみたのですが、シリコンと相性が良くなく、樹脂粘土に変えてみたら今度は型がうまく作れませんでした。そのあとふと、「いつも使っている焼き物粘土でいいのでは?」と思いついたんです。これまで焼き物で型を作るという経験がなかったので、なかなか発想に至らなかったんですが、思いついたら一番使い慣れていることもあって、しっくりきて。うまくいきました。

あと大変だったことといえば、そもそもジェスモナイトを初めて使ったので、その扱いについても戸惑うことが多かったです。出来上がったら、ジェスモナイトの水性に反応してしまったのか、お花の色が変わってしまっていたり……。
ただ、温かみのあるジェスモナイトは使ってみるとすごく良かったです。今回の自然素材との組み合わせにも、問題なく使うことができましたし、固くなったあとでも削りがしやすく、他の素材と比べても使いやすいですね。



――本当に様々な点で、工夫をしながら制作をして下さっていたのですね。


そうですね、すごく難しいです。でも、この手探りな感じが面白くもあります。
自然なものって主張が強いので、素材としては敬遠されることが多いんです。私も今まで自分の表現の手段にしたことがなかったので、それを考えるきっかけにもなりました。

ドライフラワーを使った立体造形、というだけだと、制作している方は他にもいるので、今後はもっと、自分だから与えられる付加価値を考えていきたいと思っています。

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